お知らせ&BLOG

News & BLOG

2025 08.21

買取日記

力士 相撲浮世絵 【11点38,700円】

今回は相撲絵の木版画・浮世絵を中心にまとめて11点38,700円を買い取りさせていただきました。

神事と競技として日本神話や古代記録にも登場する相撲は、江戸時代に庶民の娯楽として観戦がひろまり、浮世絵でも「相撲絵」として描かれます。
相撲絵は主に三つのカテゴリーに分かれます。人気力士を大きく描いた肖像画、土俵上での戦いを描いた取組絵、力士や行司などの序列を描いた番付です。

肖像画

豊国 相撲繁栄溜り入りの図 西方鏡岩

三代豊国「相撲繁栄溜り入りの図 西方鏡岩」1847年頃

当時の相撲ファンにとっては、肖像画はブロマイド的な存在と考えられます。力士の姿を自宅に飾ったり、コレクションしたりすることもあったのではないでしょうか。その点に関しては、現代と特段変わらないと思います。しかし、当時の人気や番付上位者の顔ぶれ、土俵や観客席の様子など、現存する写真資料が少ない時代の貴重な記録にもなっています。


上の絵は、力士が土俵入りのために溜りに入る様子を描いた作品です。
「西の方 鏡岩」という情報から察するに、描かれているのは「鏡岩濱之助」(かがみいわはまのすけ)と考えられます。
鏡岩は1769年に生まれ、1801年11月から1815年まで活躍した力士です。鏡岩の最高位は「小結」で、幕内では横綱から数えて第4位に当たります。(横綱・大関・関脇・小結・前頭)
引退後に鏡岩が描かれた真意は謎ですが、執筆者が思うに、当時の最強力士ともいわれた雷電爲右エ門(らいでんためえもん)に勝利したという逸話が後世に語り継がれ、引退から30年以上たった1847年ごろになっても、浮世絵の恰好の的だったのではないでしょうか。
鏡岩を以下の絵と比較しても、本人であることは明らかです。

鏡岩濱之助 (1769年生)

初代国貞 左にいる鏡岩濱之助、と狹布里宗五郎が取組をする姿が描かれています。

画像: 鏡岩濱之助 (1769年生) (Wikimedia Commonsより)
出典: Wikimedia Commons, File:鏡岩濱之助 (1769年生) 
ライセンス: パブリックドメイン

※参考画像であり、今回の買取品には含まれておりません。

取組絵

国明 大相撲取組之図

二代国明「大相撲取組之図」

「取組絵(とりくみえ)」とは、土俵上で実際に力士同士が取り組んでいる場面を描いた相撲絵のことです。
上の絵では、東方の「劔山谷右エ門」と西方の「大達羽左エ門」が取組をする姿が描かれています。両者とも大関としての取組です。
劔山と大達が対戦した記録は残っていないため、いつ・どこで行われた取組かは不明です。しかし、この資料は、両者の対戦を示す唯一の手がかりとなる可能性があります。

 

番付

有様で無ひ物之評判記

不詳「有様で無ひ物之評判記」

「番付(ばんづけ)」とは、相撲の力士や行司などの序列(地位・階級)を一覧にして記した表のことです。
もともとは大相撲の定期興行ごとに発行され、観客や関係者に配られたり、土産として販売されたりしました。

そもそも「東方」「西方」とは?

勝負する力士が東西に分かれ、それぞれ「東方の力士」「西方の力士」と呼ばれることを指します。同じ地位であれば、東方がやや上位とされています。
初期のころは、現在の滋賀県である近江国を境に東西を分け、力士の出身地によって区分していたようです。

「東」と「西」の二組に分かれるわけですが、上の絵(2代国明「大相撲取組之図」)を改めてご覧ください。一番後ろに座っている二人組から見て、大達(西方)は左に、劔山(東方)は右に見えます。
「天子南面」という言葉がありますが、簡単にいえば「世を治める人物は南を向いて座る」という意味です。

つまり「相撲節会」でも、当時の天皇は北を背にして南を向いていたわけです。
そうなると、力士の配置は自ずと東と西に分かれることになります。

今回の買取について

相撲絵は単なる娯楽絵ではなく、当時の相撲文化・力士の姿・衣装・化粧・土俵風景を記録する歴史資料的価値があります。状態の良さ、市場での評価、そして作品が持つ歴史的価値などを総合的に判断し、11点を38,700円とさせていただきました。
下表は今回、買取額をつけさせていただいた版画の一覧です。似たジャンルの版画のご売却をご検討中の方はご参考まで。

絵師 タイトル 買取価格
不詳 有様で無ひ物之評判記 1500
国芳 木曽街道六十九之内 日本橋 5000
国貞 雲龍久吉 4000
国輝 不知火 平石 7200
国貞 戸上山兵右エ門 2500
豊国 相撲繁栄溜り入りの図 西方鏡岩 3750
国明 境川浪右衛門 3000
玉波 東京 當り矢信太郎 3000
国明 和州 鶴ケ浜政吉 3000
国明 東京千羽ヶ山獄宗助 3000
国明 大相撲取組之図 2750

スタッフJ

【参考文献】

フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』「鏡岩濱之助 (1769年生)」https://ja.wikipedia.org/wiki/鏡岩濱之助_(1769年生)(2025年08月14日参照)

muvuvu「大相撲で東と西に分かれているのはなぜ?その違いや分け方は?」https://muvuvu.com/大相撲-東-西/(2025年08月14日参照)