取引実績4000点以上の浮世絵・版画鑑定のスペシャリストが査定
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2025 06.20
買取日記
今回は木版ちりめん本を中心ににまとめて7点66,800円を買い取りさせていただきました。
ちりめん本とは、明治時代から大正時代にかけて日本で作られた、和紙を使用し、木版多色刷りで挿絵を入れ、文章を活版で印刷し、縮緬布のような風合を持った本のことです。
その起源は、長谷川武次郎(弘文社)が明治18年(1885年)に刊行を始めた「日本昔話」シリーズとされています。
ここでいう「縮緬(ちりめん)」とは、紙に特殊な加工を施し、布の縮緬のように表面に細かいシワ(しぼ)を生じさせた和紙のことを指します。
本来の縮緬布は、絹糸を強く撚って織り、布を精練(水や熱で洗浄)することで、全体に凹凸が生まれ、独特の「しぼ」が現れます。わざとこの「しぼ」を作ることで、独特の手触りと高級感が出るわけです。
江戸時代に生まれた長谷川武次郎は、英語を学ぶことが商売に繋がると考え、英語を取得しました。出版や貿易に関わりを持ち、職人たちを束ねる手腕にも長けていた彼は、外国人向けに英語で「ちりめん本」の出版を始めました。
このようにして始まったちりめん本は、日本を訪れる外国人観光客や在留外国人にとって人気の土産物となり、広く流通しました。
物語は「桃太郎」「舌切り雀」「花咲か爺」など、日本の昔話や伝説、日本の風俗を紹介する内容です。
翻訳は、宣教師や教師、外交官、軍人など、当時来日していた外国人たちが担当しました。挿絵は、小林永濯や鈴木華邨などの画家によって描かれましたが、作者名の記載がない本も多いです。
このシリーズは英語版を中心に、フランス語・スペイン語・ポルトガル語・ドイツ語など、多言語に翻訳され出版されました。
当時の西洋では「ジャポニスム」と呼ばれる日本文化への関心が高まっており、日本の美術や工芸、生活文化が西洋の芸術家に影響を与えていました。現代で言う「クールジャパン」の先駆けのような動きです。
昔話には鬼や河童といった妖怪が登場し、日本特有の文化的要素が強く含まれています。こうした物語は、西洋人にとって「日本らしさ」を感じるには最適な題材であり、また物語自体が短く、絵と文の組み合わせで簡潔にまとめられるため、翻訳や出版にも適していました。
これらの理由から、長谷川武次郎は日本昔話をちりめん本の最初の題材として選んだのではないでしょうか。
現在では骨董品・美術品として高い評価を受けており、海外のコレクターにも愛されています。特に初版や保存状態の良いもの、人気の高い物語(例:桃太郎や花咲か爺)は、高値で取引されることもあります。
状態の良さ、市場での評価、そして作品が持つ歴史的価値などを総合的に判断し、7点を66,800円とさせていただきました。
下表は今回、買取額をつけさせていただいた版画の一覧です。似たジャンルの版画のご売却をご検討中の方はご参考まで。
絵師 | タイトル | 買取価格 |
守川周重 | 歌舞伎絵 ちりめん三枚続 | 10,200 |
小林永濯 | 八頭の大蛇 ちりめん本 | 8,500 |
小林永濯 | 桃太郎 ちりめん本 | 14,000 |
鈴木華邨 | 俵藤太物語 ちりめん本 | 7,800 |
不詳 | 六歌仙 ちりめん本 | 8,500 |
小林永濯 | 因幡の白兎 ちりめん本 | 10,000 |
鈴木宗三郎 | しっぺい太郎 ちりめん本 | 7,800 |
スタッフJ